ノベル部!

気まぐれに小説を書いていきます。

【小説】異世界ハーレムに憧れて #.1

 

 あれ? 俺は昨日ゲームをしていたはずだ。そのあと……そのあと? そのあとどうしたんだっけ? 寝転んでいた場所から辺りを見渡してみると、どうやら自分が牧草らしい草の上に横になっていたとわかった。周囲は薄暗く、まだ夜が明けきっていないようだ。

 体を起こしてみる。俺は農家の息子ではないし、自分の部屋で牧草をベッドにしてみる趣味があるわけでもない。

 

 ーー異世界転生か。

 

 昨今の日本人はホイホイ異世界転生するよな。その異世界で同窓生に会ってもおかしくないような頻度だと思うんだが、まだそうだと決まったわけでもないので一旦落ち着いてみよう。夢遊病を発症して、寝ている間にこんなところまで来てしまっただけかもしれないし、もしかしたら拉致されてここに拘置されているのかもしれない。そうじゃないことを確かめてから、異世界転生の可能性にドキドキしても遅くはないじゃないか。

 俺はゆっくりと起き上がり、黒いジャージにへばりついた牧草を軽く払って周囲を見渡してみると、何かの息遣いが感じられた。状況から見れば牛か馬か、家畜の類いであろうが、恐る恐る音の主に近づいてみる。

 

「……何だ、やっぱり馬か」

 

 何の変哲もない馬だ。とはいえ、俺は馬をテレビや本でしか見たことがないので、変哲がないかどうかはよくわからないが、まぁ俺の知る馬と違いはないように見えた。俺が手を差し出すと馬が頭を垂れるので、ひとしきり撫でてみる。

 うん、と俺は薄明るくなり始めている屋内で軽くけのびをしてみて、そぉっと扉を開いてみる。

 

 一面の草原に見渡す限りの地平線が眼前に広がった。地平線を形作る山脈の隙間からは太陽が昇ろうとしている。ちょこちょこと藁葺き屋根わらぶきやねっぽい家屋があるが、今どき日本で藁葺き屋根ってあり得るのか? それよりもこの景色、この景観が、体に当たる風や空気の味が、ここが日本などでないことを俺に教えてくるようで、俺の鼓動が加速していくのを感じる。

 異世界かどうかはまだ確定できるレベルじゃないが、これでここが少なくとも俺の知っている場所じゃないことがわかった。

 

「あそこに、人がいるかもしれないな」

 

 太陽が昇ってきて、だいぶ明るくなってきた。改めて見回してみて、俺が今いたのは、やはり厩舎きゅうしゃだったようだとわかる。

 とりあえず、とにかく人に会いたい。そうすれば、ここがどこなのかもわかるはずだ。

 そんなことを考えながら、拉致された可能性は低いだろうな、と思っていた。俺をどうするつもりだったのかは知らないが、拉致っておいて自由に歩き回らせるのはおかしいからだ。

 

「何で俺が異世界転生……?」

 

 半ば異世界転生の可能性が確信になりつつあった俺は、藁葺き屋根の家屋らしき建物の前にたどり着く。雑に切られた……というよりは割られたように歪な木材を壁と屋根の基盤にして、藁を被せて雨を凌ぐ程度の、本当に簡素な家屋だ。これは俺が知っている異世界像と比べても、かなり低い文明なのかもしれない。扉を探して、叩いてみた。何が出てくるかわからないので、意味もなく身構えてみる。

 ギシギシと音を立てながら扉が開くと、そこにはーー……。

 

「美少女……!」

「どちら様? 見ない顔ですけど」

 

 俺は扉の前でキョトンとしている少女に、思わずつぶやいていた。淡い栗毛色のセミロング、そのやや長めな前髪からは柔らかな碧眼が覗いている。俺よりもだいぶ背が小さいように見えるが、それとは不釣り合いに大きく豊かに実った胸が俺の目を惹き付けて離さない。簡易的な布切れを繋いで作られたような質素な服を着ているせいか、余計に素材の良さが引き立っていた。

 

「あの……?」

「えっ? あ、ああ、ごめんごめん! 俺は結城 智史ゆうき さとし。気がついたらあそこの厩舎で寝てたんだけど……ここはどこ?」

「ああ、あなたが転生者の方だったんですね。私はリリー。転生の巫女を務めています」

 

 

続き:【小説】異世界ハーレムに憧れて #.2 - ノベル部!

 

 

(最終更新日:2019年10月18日)

 

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